肘の痛み
過度な負担をかけない正しい動かし方を知ることが大切です
ひじは腕を振ったりものを持ち上げたりするようなダイナミックな動きを可能とするだけでなく、手首や指の曲げ伸ばしなどといった細かな動作にも深く関係しているのが特徴的です。転倒時にひじを強く突くなど日常生活の中で起きるトラブルに加え、ひじを酷使するスポーツなどにおいては関節部に変形や痛みが生じやすくなります。
痛みを引き起こす原因となる箇所をまずは正しく見極め、過度な負担をかけないための動かし方を知ることが大切となります。
ひじのメカニズム
ひじは肩へと繋がる上腕骨(じょうわんこつ)、上腕骨を受ける形となって手首へと伸びる橈骨(とうこつ)、橈骨と並行して小指側へと伸びる尺骨(しゃっこつ)の計3本の骨によって構成されています。この3 本の骨が互いに組みあわさるようにしてひじ関節はできており、腕を曲げ伸ばしたり捻ったりする機能を担っています。
さらにこの曲げ伸ばしの動作を安定して行うために、さまざまな筋肉や靭帯、腱などがひじ関節を取り囲むようにして支えています。そのためひじに何らかの異常が起きた場合には、骨折や脱臼など骨に関する問題に加えて、筋肉や腱などの軟部組織で起きる炎症や損傷の程度などさまざまな角度からの分析が必要となります。
主な症状
- ひじを曲げ伸ばしすると痛みを感じる
- ひじが完全に曲がらない、伸びない
- ひじを曲げ伸ばしする際に引っ掛かる感じがする
- ものを持つとひじの外側が痛む
- 手首や指先にしびれを感じる
- 指先の感覚や動きが鈍くなる など
例えばひじの内側には尺骨神経と呼ばれる神経が走っています。尺骨神経は小指や薬指、手首の動きと感覚をつかさどるものです。ひじ関節の異常に伴い、この尺骨神経が圧迫などの影響を受けると痛みやしびれなどの神経症状が現れるようになります。
代表的な疾患
上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)
ひじの外側にある筋肉の付着部で炎症が起きる病気です。「テニスひじ」や「ゴルフひじ」と呼ばれることも多いですが、最近ではパソコンのキーボードを長時間打つ動作によって上腕骨外側上顆炎を発症する患者さまが増えています。
手首を動かす筋肉はひじにあります。手首を頻繁に動かす動作を行ったり、手首を一定の角度で固定するような動きを長時間続けるとひじの筋肉に強いストレスがかかり炎症が起こりやすくなります。
変形性ひじ関節症
ひじの変形によって曲げ伸ばしが困難になる病気です。日常的に重労働をされている方やひじを酷使するスポーツをされている方などに多くみられる疾患です。ひじに負担のかかる動きを長期にわたり繰り返した結果や怪我がきっかけとなってひじに変形が起こります。
骨の間でクッションとなるべき軟骨が擦り減ることで痛みを生じます。曲げ伸ばしの際の痛みだけでなく、ひじの引っ掛かり感や動かしにくさから可動域(動かせる範囲)に自然と制限が生まれるようになります。ひじの変形は早期に適切な治療を加えることができれば重度な症状へ移行する前に食い止めることが可能です。
ひじに異常を感じられたらまずは早期に診察にお越しください。
変形から内側を通る尺骨神経が圧迫されたり引っ張られたりすると指先にしびれを感じたり、指を広げること自体が難しくなる麻痺状態に陥ります。変形性ひじ関節症ではこのような肘部菅症候群の症状が随伴して表れることが特徴的です。
肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)
ひじの骨のすぐ横には尺骨神経と呼ばれる神経が通っており、ひじの変形がひどくなると圧迫を受けたり引っ張られたりすることで、しびれや麻痺を生じるようになります。
特に薬指や小指の感覚が鈍くなりやすく、指先を使う作業が困難になるなどといった異常が現れやすくなります。
野球ひじ
繰り返しひじをひねるような動作によって起こりやすい疾患です。「野球ひじ」というその名の通り、投球動作はまさにひじを強くひねる動きを必要とします。
特にピッチャーやキャッチャーはボールを投げる回数が多くなるため起こりやすく、ひじに過度な負担を強いるほどに骨同士が激しくぶつかりあい、内部にある靭帯や軟骨までもが剥がれ落ちるなどの損傷が起こりやすくなります。成長期を含む若年層の患者さまに多くみられる傾向があり、重症の場合には手術治療を要します。
復帰にあたっては筋肉の柔軟性を高めるための専門的なリハビリをはじめ、全体的な筋力を再び取り戻すための効果的なトレーニング、投球フォームの見直しなどが重視されます。
詳しくは「スポーツ整形」へ
診断に必要となる各種検査について
ひじ関節内部は複雑な構造をしています。どこでどのような異常が起きているのかを明らかにするためにも、詳しい画像検査が必要となります。
レントゲン
骨の変形の有無や石灰化などの異常がみられないかを詳しく確認します。
超音波検査
筋肉組織の炎症や靭帯損傷の有無を確認するために有効となる検査です。
MRI
ひじ内部にある軟部組織(靭帯や腱など)の異常が考えられる場合にはMRIを用いた詳細な解析が必要となります。
治療について
薬物治療
消炎鎮痛剤や貼り薬などを適宜用いて症状の改善を図ります。痛みが激しい場合にはステロイド剤の局所注射を行うこともあります。
温熱療法などを用いた効果的な物理療法
温熱療法(ホットパック)を用いて患部の血行を促進し、筋肉のリラクゼーションを図ります。深部の代謝を高めるさまざまな物理療法を用いて筋肉のこりをほぐし、痛みの改善を図ります。
運動器リハビリテーション
ストレッチや筋力強化のための効果的な運動療法を取り入れ、硬くなった筋肉のこわばりをほぐします。痛みのある部位はもちろん、総合的な筋肉バランスや関節の硬さなどを細かく確認しながら無理のないひじの動きを指導させていただきます。
装具治療
必要に応じてサポーターやバンドなどの装具を用いて痛みの軽減を図ります。
手術治療
重症の場合には手術治療が必要となります。全身麻酔を伴う手術となるため、提携の高次医療機関へとご紹介させていただきます。
当院では痛みの早期改善を第一に、機能回復のための効果的なリハビリテーション、再発を防ぐための正しい動作トレーニングなどにも力を入れて取り組んでおります
当院では専門医の指導のもと、豊富な知識と経験を持つ理学療法士が患者さま一人一人の症状にあわせたきめ細やかな治療プログラムを作成いたしております。特にスポーツによる怪我は、将来的にも痛みや異常を繰り返さないための正しい動作トレーニングが重要となります。
当院のスポーツ整形ではさらに専門性の高いケアについても手厚くご指導させていただいております。どうぞお気軽に医師やスタッフまでご相談ください。
ひじ関節のトラブルは年齢や性別に関わらず誰にでも起こりえます
ひじ関節に異常が現れると腕の曲げ伸ばしができなくなるだけでなく、ものを指でつかむなどちょっとした動きですらたちまち困難になってしまいます。日常的な不自由さに悩み、放置し続ければ症状は悪化の一途を辿ります。特に変形性ひじ関節症については早期に適切な治療を開始できれば大きな改善が見込めます。
ひじに違和感や痛みを生じた場合にはできるだけ早く整形外科までご相談ください。