側弯症
できるだけ症状を抑えて、日常生活を送れるようにできるかが重要です。
背骨の形状について
脊柱は正常な状態では、正面からみるとまっすぐに配列しており、横から見ると頚椎と腰椎が前弯といって前に弯曲した形、胸椎が後弯といって後ろに弯曲した形をしています。
この弯曲によって、しなやかなバネのような感じで上体を前に倒したり、衝撃を吸収することができるのです。この背骨(脊柱)が、異常に曲がってしまうことを「脊柱変形」といいます。
曲がる方向で下記に分類されます。
- 前弯症:前に曲がる
- 後弯症:後ろに曲がる
- 側弯症:横に曲がる
その中でも今回は側弯症について説明いたします。
側弯症は学校の検診などで馴染みがある方がいらっしゃるのではないでしょうか?背骨が左右に弯曲した状態で、背骨自体のねじれを伴う疾患です。よく子供の疾患であると認識されがちですが、成長期に背骨が縦に伸びずに歪みを伴って成長していくものを「思春期特発性側弯症」と呼び、学童期に側弯がないにも関わらず、成人になって加齢に伴って椎間板や椎間関節が変性して椎体を支える力が弱くなり、脊柱が曲がってくる状態のことを「変性側弯症」と呼びます。
この二つの代表的側弯症についてご紹介してまいります。
思春期特発性側弯症
側弯症の中でも成長期である小学校高学年から中学校時期に発症する思春期特発性側弯症が全側弯症の80~90%を占め、最も多いものとなります。日本での思春期特発性側弯症の発生頻度は1~2%程度で、女子に多くみられ、原因不明の特発性側弯症が60~70%を占めると言われています。
生活習慣や運動歴、遺伝的背景等様々な要因が報告されていますが、基本的に一つの原因で成立する疾患なわけではなく、複数の原因が影響し合って発症しているだろうと現在は考えられています。学校検診などで側弯症を疑われた方は、まずはX線(レントゲン検査)を撮影し、側弯の程度、脊椎や肋骨に異常(奇形)がないかを調べます。短期間で側弯が悪化している場合には、年に数回以上の注意深い経過観察が必要です。
症状について
基本的に10代での脊柱変形についてはあくまでの背骨の配列の異常が中心となり、痛みや神経症状はないことが一般です。ただ、変形の程度は重度となると、背骨の間の軟骨のクッションである椎間板が傷んできて痛みを生じたり、胸郭が変形することで肺や心臓が圧迫を受け機能低下を生じる可能性があります。
また、重度変形が残存した状態で成人になると、成長期が終了した後も変形が進行し、背骨にかかる負担が大きくなるため、椎間板が擦り減ってきたり関節が変形を起こしたりするなど、いわゆる加齢性変化が通常の人よりも早期に、早いと20~30歳代より認められるようになります。
治療について
治療法は症状と側弯角(レントゲン画像にて計測)によって変わってきます。
側弯の進行の度合いが軽度の場合(側弯角20度未満)は、定期的な外来での経過観察を行い、進行の有無を確認します。
中等度の場合(20~40度)には側弯の進行抑制を目的とし、成長期の間は装具による治療を行います。長時間の装着を必要としますが、中等度の変形がある場合、装具療法をしなかった場合約4倍程度手術に至りやすいとの報告もあり、成長期が終了するまでの間治療継続することが重要となります。国家資格である義肢装具士による側弯症装具の作成が必要となり、外来にてレントゲン画像を元に各患者さまの脊柱変形の程度、体幹変形(体型変形)の程度を見ながら、矯正具合を適宜調整しオーダーメイドの装具を作成します。当院でも装具外来を行っておりますので、お気軽にご相談頂ければと思います。
側弯の進行が早い場合や、高度の場合(50度以上、胸腰椎側弯・腰椎側弯の場合は40度以上)は手術が推奨されることがあり、近隣の専門病院への紹介を検討させて頂きます。
思春期特発性側弯症は、早期に発見し、弯曲が進行する前に治療を開始することが大切です
学校の側弯検診(スクリーニング検査)にて指摘された場合には、早期に受診をお勧めします。ご家族様が外観上体幹変形に気づかれることもあります。当院では、運動療法や装具療法で経過観察を行うことが多いですが、進行が早かったり弯曲(変形)の程度が大きい患者さまは手術が必要になることもあり、その場合は近隣の連携病院へ紹介させて頂くことがあります。
変性側弯症
中高年期(多くは40歳以降)に出現する側弯症です。
原因としては、加齢性の変化が起こり、特に椎間板(軟骨)が弱くなって潰れたりずれたりすることで背骨(脊柱)の変形が進みます。また、骨粗鬆症性の圧迫骨折によって曲がってくる場合も非常に多いです。
日常の動作では、そのほとんどが自分の前方で作業をする(ものを持ったり、拾ったりなど)前傾姿勢となることが多く、筋力低下も相まって、側弯のみならず後弯(後ろにも曲がる)も合併し「後側弯症」に至ることも多いです。
症状について
初期症状は腰痛ですが、骨棘などの椎体変形や脊柱のねじれ(回旋変形)を伴ってくると背骨の中を通っている神経根や馬尾神経(脊柱管)を圧迫して、足のしびれ、痛みや筋力低下が生じる場合も少なくありません。
また、進行すると腰痛が悪化したり、体幹のバランスも悪くなり、長時間同じ姿勢でいることが困難になり日常生活に支障を来してきます。
合併症として特に後弯症を合併した患者さまにおいては逆流性食道炎が多いと言われています。逆流性食道炎は胃液が食道に逆流し食道に炎症を起こします。症状としては初期はむねやけ程度ですが重症化すると食道粘膜にびらんや潰瘍をきたし、激しい痛みとなることがあります。
診断に必要となる各種検査について
レントゲン
腰の後弯症合併の場合は明らかに腰曲がり状態になっているためよくわかりますが、側弯症のみの場合は外観上分からないケースもあります。いずれもレントゲン検査によって診断が可能となります。
MRI
神経症状を伴う場合、脊髄の圧迫の程度を調べるためMRIが有用となります。
骨密度検査
側弯症は上述の通り背景に骨粗鬆症が隠れている場合があります。その場合は痛みを緩和させる治療のみでなく、骨粗鬆症の程度を評価した上でその治療にあたる必要があります。
治療について
高齢者に多いという事で、やはり治療の選択はまず初めに痛みのコントロールとリハビリから開始します。
内服治療
痛みを和らげる薬(消炎鎮痛剤)、末梢血管を広げて神経の血流を増やして症状を和らげる薬(プロスタグランジン製剤)、中枢神経に作用して痛覚を鎮める薬(プレガバリン、オピオイドなど)等で症状が改善する場合があります。
トリガーブロック注射
内服治療で改善が見られない場合、疼痛部位に直接痛み止めの注射を行います。
硬膜外ブロック注射
背部痛・腰痛だけでなく、足も腰も両方痛む(神経症状を合併)という人には有効な方法です。
神経根ブロック注射
痛みのでている神経を確実に捕らえて、そこに局所麻酔薬を打つ方法です。
装具治療
体幹の筋力が低下すると、姿勢を保持することが難しくなることがあります。その場合は局所の安静目的も兼ねて装具(コルセット)を作成し歩行時に装着してもらうこともあります。
運動器リハビリテーション(運動療法)
他の保存療法と同時におこないます。変形により体幹筋が衰え、より変形が進行し腰痛・歩行困難となります。運動器リハビリテーションでは体幹筋のストレッチ・トレーニングを行い、歩き方や姿勢を正してまいります。
手術療法
リハビリテーションや薬物治療でも効果がない場合は手術の適応となります。金属のスクリューで脊柱を矯正し固定する方法です。手術は専門的技術が必要となり、保存加療では日常生活に支障を来すような症状が改善しない場合は、提携の高次専門医療機関へとご紹介させていただきます。
当院ではいかに症状を抑え日常生活を送れるかを第一に考え、
機能回復のための効果的な運動器リハビリテーション、
進行を防ぐための正しい動作トレーニングなどにも力を入れて取り組んでおります
当院では長年側弯症患者さまの動作解析の研究を行ってきた専門医の指導のもと、豊富な知識と経験を持つ理学療法士が患者さま一人一人の症状にあわせたきめ細やかな治療プログラムを作成いたしております。
背骨の変形自体は治せるものではありません。その中で、変形を持ちながらも問題なく日常生活が送れるよう、さらに専門性の高いケアについても手厚く対応させていただいております。どうぞお気軽に医師やスタッフまでご相談ください。
脊柱変形を認めたら早期に積極的リハビリテーション治療をお勧めします
側弯症をはじめとした脊柱変形があらわれると腰痛だけではなく、日常的な不自由さに悩み、放置し続ければ症状は悪化の一途を辿る可能性があります。そういった時には安静ではなく、積極的運動療法(リハビリテーション治療)が推奨されます。早期に適切な治療を開始できれば、症状改善や進行防止が見込めます。背部、腰部に違和感や痛みを生じた場合にはできるだけ早く整形外科までご相談ください。